2012年09月18日

チャイコフスキーコンクール  中村紘子

ワルシャワショパン国際コンクールにおいて日本人至上二人目の入賞を成し遂げたピアニストである
中村紘子さんが、八十年代、チェルノブイリ原発事故に端を発する混乱の中、
単身モスクワで開催されたチャイコフスキーコンクールに
審査員として参加した際の一部始終を綴ったのが本書です。

チャイコフスキーコンクール


コンテスタント



チャイコフスキー同コンクールは、エリザベート王妃国際音楽コンクール、
ショパン国際ピアノコンクールと並び、
世界三大コンクールの一つで、チャイコフスキー (写真右)
に因んで付けられた国際コンクールです。
小学生時代からピアノを習っていた事も相俟ってか私的にこの本は
大変気に入っている一冊で既に数回読み直してはその都度「へぇ~」とか
「ほぉ~」などと気の抜けた感慨の声を上げている次第です。
というのも、一般人にはブラックボックスといって良いほど全貌が見えない
国際コンクールの実情や裏側などの豆知識や雑学などを筆頭に、
各国から選出された「ツーリスト」と呼ばれる独特の個性を持つコンテスタントや、
彼等に対する審査員の印象などが生々しく描かれている点が実に興味深いです。

例えばチャコフスキーコンクールのような大舞台に於いても、
一次審査の独奏では一級の演奏を披露し、審査員以下、
会場に訪れた数千人の観客を魅了し、上質なリサイタル演奏のような空間を
造り上げてしまうほどの巧みな演奏技術を有するコンテスタント
(当時はソ連の出場者が多かったようです) から、
本当にレッスンをキチンと行って本コンクールに挑んだのか
非常に疑わしいような辿辿しい演奏を披露するコンテスタント
(こちらは米国や日本人に多かったようです)まで個性豊かな彼等を、
審査員の立場からあれこれと当時を回想する言葉の数々に感銘を受けたり、
或いはコメディチックな場面の描写ではゲラゲラと笑えます。

長い時間を掛け、様々な演奏を聴くという大仕事の最中、
美女、美少女のコンテスタントが登場したときは、
男性が大多数を占める審査員の方々も
それまでつまらなそうな顔をしていたにもかかわらず、
途端に頬を緩め、嬉々とした表情でそのコンテスタントの演奏に聴き入る…
といった場面には流石にヨーロッパアカデミズムの象徴たる
コンセルバトワールの偉大なるマエストロたちも
やはり一人の人である、、といったようなところがあり何とも愉快ですね。


楽器の完成に追随する音楽。



チェンバロしかしそういった当時のコミカルを交えた回想録もさることながら、
最もこの本を読んで感銘を受けたのは本書が只の自叙伝的なものに留まらず、
また単なる音楽史の解説にも留まらず、世界各地の歴史や文化から、
或いはそこに住む人々のライフスタイルの変化に至るまで、
徹底した観察と研究で構成された素晴らしい文学作品の一つであることで、
クラシック音楽の業界以外の様々な知識も豊富に収められている本書は
その分野にあまり興味のない人が読んでも恐らく
意義のある一冊であると言えるかと思います。

その中に於いて私的に感銘を受けた考察は、
ピアノ演奏に於いてロマン派時代作曲家の演奏が、
その他ありとあらゆる時代の楽曲に比較した場合、
最も表現力を要求し困難を極めるという事実に対する考察です。
これにはピアノという楽器の誕生と進化が密接に関係しており、
例えばショパンが幼少期に訓練として使用した当時のピアノがワルシャワ近郊に
今もある彼の生家に複数保管されているそうですが、その中でも
最古(1800年代初頭に製造された)のものは、ピアノというより
それはまるでハープにキーボードをつけたチェンバロ (写真右) のような
非常に小規模なもので、必然的に現行のものに比べれば表現力には
かなりの制限があるそうですが、中村氏が実際に所有しているという
リストが生前使用した十九世紀半ば近くのピアノは、音域が1オク狭いことを除けば
ほぼ現代のものといっても差し支えの無いほど進化しているそうです。
この短時間のうちに劇的に進化した背景にはショパン自身の演奏家、
作曲家としての厳格な希望に基づく知恵の恩恵が多大に
寄与しているしているそうですが、結論として、十八世紀の西洋音楽に於ける
中興の祖として遺憾なく采配を振るったバッハを筆頭に、
数多存在したクラシックの作曲家の中でも、現在の高い表現力を有する
完成されたピアノを駆使して作曲をした偉大なクラシックの作曲家といえば、
ショパン、リスト、或いはラフマニノフなどのごく限られたロマン派後期の人たちだけなのです。
そのため、彼等の曲を演奏するときには必然的にピアノというインストゥルメンタルの持つ
最大限の表現力を引き出す確かな技巧を必要とされるのだそうで、
そこに「ショパンはピアニストの試金石」といわれる由縁があるそうです。
この説得力のある解説にはベートーヴェンのソナタやショパンのノクターン、
或いはクラシック音楽の最終到達地点とされたラフマニノフのコンチェルト三番などの
燦然と輝くロマン派傑作の有する独特の格式ある歴史、或いは文化的奥深さを伴った重厚なる背景を
私的に改めて考えさせられる一文でありました。


近代日本が抱える音楽教育の影。



モスクワ音楽院
その他にも二十世紀初頭の管弦楽団を中心とする西洋音楽界の中に
暗部として存在していた男女差別の問題や、国際コンクールの乱立によって
需要が供給を上回る時代を招いたことで、優勝しても演奏家として
生計を立てることが困難になった現在の深刻な問題、或いは日本国内に於いても、
音楽学校の乱立で同様の事態が起こっている事実にも積極的に言及しておられ、
改めて、何時の時代も優秀な演奏家を
輩出してきたモスクワ音楽院 (写真右) のように、
一線で活躍する音楽家が才能豊かな生徒を丹念に教育していくという
伝統的な制度の重要性を説いておられるのも印象深いです。

第二十回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞したも、
そういった芸術家として、数十年にわたり世界各国で得た濃密な経験を
背景とした彼女の重厚且つ的確な分析と、
典雅で洗練された文章に起因しているのかなと私的に感じた一冊です。






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posted by makomako972 at 22:35| 読書 | 更新情報をチェックする


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