2011年05月03日

羅生門、鼻   芥川龍之介


今回は日本の文学史を学ぶ上で欠かせない
芥川龍之介の初期作品「羅生門」と「鼻」の
二編について書きたいと思います。

羅生門、鼻



"日常" というものの捉え方の違い


「この点で、彼等と、日本の自然派の作家とは、大分ちがう。
王朝時代の小説家は、存外、閑人ではない。」



島崎藤村この一文から解る通り、
芥川龍之介は、島崎(写真右)の
「破戒」に代表される
自然主義の流れに対する
カウンターカルチャー的な
ポリシーをもって姿を現した作家で、
羅生門は大正四年十一月に、
続く「鼻」は大正五年二月に
発表された作品です。
取り分け「鼻」は当時文壇で絶大な
影響力を持った夏目漱石に絶賛された
という事実があり、大学入試では
覚えておくべき重要なエピソードとしても有名ですね。

さて、理知派、芸術至上主義、そしてなにより反自然主義と様々な
文学的思想を持っていた芥川ですが、改めて前述の藤村と比較してみると
やはり両者は比較対象としては最適だなとつくづく思う次第でして、

「人生は一行のボートレートにも如かず」

という有名な記述を残し、現実をある意味に於いては放擲し、
芸術の神髄に深く心酔した芥川を、本書の解説欄に於いて三好行雄氏は

「爾余の日常生活はすべて人生の残滓にすぎぬという、
実生活を捨象し、創造の行為にのみ絶対の価値をおく芸術観の吐露である。」


という一文で表現しておられます。
しかし晩年はその考えを検める過程で苦悩し、後の憂き目の一つの
要因となってしまいましたが、反対に子供を三人餓死させながらも
自費出版で「破戒」を発表した藤村は、正しく生き様自体が特異なものであり、
正しく生き様=文学というようなスタンスで、
更にそういったインスピレーションを自分の作品に
色濃く投影したことを鑑みると、両者の違いはまさしく明瞭なものです。
自我の目覚め、或は「特色がないのが特色」といわれる浪漫主義に比べると
自然主義と反自然主義の差異は殊の外解りやすいですね。


日本文学史



・古典文学の移ろい

小説神髄さかのぼること明治二十年、
坪内逍遥が「小説神髄」において
もたらした写実主義は、
その後二葉亭四迷によって
”言文一致”の概念と共に一様の
完成を見るに至りますが、
その後現われた、擬古典主義は
そういった西洋式の文学構成に対する
一種のアンチテーゼとしての
スタンスはあったものの、
古典作品に写実主義の
エッセンスを見出そうとする
姿勢からは一概にカウンターカルチャー
とは申せない部分があるなというのが
あくまで私的な印象で、そういった背景もあってか、
文学史の資料などを耽読していると、
ある作品が一方の資料では写実主義作品に属されているのが、
また別の資料では擬古典主義に属していたりして、
迂愚な僕などはその都度まごついてしまうわけですが、
芥川などが旗手となったこの反自然主義の文学運動は、
まさしく文字通り自然主義とは正反対の文学的アプローチです。


・大学ごとにわかれた文学思想

当時は大学ごとに文学的な思想が
枝葉のように特色をもつ時代で、早稲田大学が自然主義。
慶応は美を追求する耽美派として、学習院は新理想主義として、
そして芥川が在籍した東大は理知派。この流れも非常に解り易いですね。
私的に以前から抱いていたこの四大学のイメージと、
当時各々の学生が掲げた文学的思想が面白いほど符合します(笑)



「鼻」 「羅生門」



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さて、では本書に収められている
二作品の話ですが、まず「羅生門」は
今昔物語集巻二十九をベースに
巻三十一を引用して執筆されています。
現実を描写するという意味に於いては
理知派も自然主義も同じような
概念ですが、数多存在する
過去の文献や芸術作品から、
今現在を描くために最も適任な
題材を抽出し描く点が理知派の特徴で、
例えば本作では、死者の髪の毛を
毟る老婆は「現実の存在」として
描写されている点からもそれが窺い知ることができます。
太宰治の「御伽草子」の一遍「カチカチ山」で泥船で沈みそうになる狸を、
兎がオールでポコポコと激しく打擲して狸を溺死させてしまうという描写も
フォークロアを鋳造し直し、現世の男女間に巣食う概念や、
延いては世相そのものを描写している点に於いて同様のものを感じます。

鼻は今昔物語巻二十八から引用されておりますが、僕自身はこの作品に
「テーマ小説」のいわゆる典型的な形を感じています。
鼻を茹でてから足で踏んで小さくするというのはシュールで面白いですが、
結果的にそれが祟って周囲の人間から愚弄され、
また嘲笑されるというのが妙にリアルで、付き人の助力なしには
満足に食事も取ることができないほど鼻が長いという
「幻想小説」的な切り口の作品でありながら
「おのれらが髪型おかしいって言ったから変えたのにそれで笑うなや!」
という二十一世紀を生きる我々世人にも容易に
理解とシンパシーが得られるまさしく傑作です。


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