2011年07月02日

華麗なる一族  全三巻   山崎豊子

数日前くらいでしょうか、とある方が、

「自分は本当に弱い人間で、自分の孤独を処理できず、ついつい友人たちに甘えてしまう」

というようなことを自嘲ぎみな面持ちで語っておられました。
引き篭もりで年中一人で趣味や仕事をセコセコしている僕は、その論に「それのどこが悪いの?」 と少し思ってしまいました。
本当に自分が苦しいときに、友人や仲間などに助けを求めるのが "弱さ" である…というのは少し僕個人の認識とは違います。
僕のように本当に弱小の権化であるかのような人間からすれば、まずそもそも頼る勇気すら無いので、独りでできないことは全て諦めるしかないのです。

例えば、三十キロの石を一人で持ち上げることが出来る人間になれれば、或いはそれが最良なのかもしれませんが、
二十キロしか持てない人もいるわけで、そういう人は二人、三人で持つ。時には数百キロの石を数十人で担ぐこともできます。
しかしそれは明らかに弱さではないように思います。
本当に弱いのは、たった一人でそういう人々を羨望の眼差しで見つめつつ、
かといって三十キロの石を一人ではどうすることもできなくて、途方に暮れている自分のような人間なのです。
だから結局のところ、友人や仲間に頼ってしまう "弱さ" も時には良いものだと僕は思いますけどね。


さて、そんな下らない話は兎も角(笑)  今回は山崎豊子さんの代表作の一つ 「華麗なる一族」 を再読し、改めて、
惜しまれつつお亡くなりになられたこの閨秀作家の、常軌を逸したまでの取材量の厚さと精密さに驚きつつ、
その内容について思ったことなどを、 「万俵鉄平」 というキャラクターを中心として簡単に書いてみたいと思います。
未読の方にはネタバレ注意報を発令させて頂きます。




鉄平は経営者としての才覚を持ち合わせていたか



阪神特殊鋼のモデルは、今更ここで書くまでもなく六十五年に
五百億円以上の負債を抱えて倒産した姫路の山陽特殊製鋼をモデルとしています。
同社はその後、会社更生法に基づき、管財人が入り七十四年には会社更生を果たし、
八十年には大証二部に上場、八十五年には
東証一部に再上場を果たす復活ぶりを見せ、今日に至っています。
阪神特殊鋼同様、同社も直接的な倒産原因は過大な設備投資による負債に加え、
東京五輪特需の衰退によって業績が低下したことが重なり、
結果的に裁判所への会社更生法申請という至になっております。

写真右はJFE 東日本製鉄所千葉地区 第5高炉の解体現場。
( Photo by (c)Tomo.Yun )
1965年(昭和40年)に火入れされた高炉設備で、作中の年代と符合する
時代に建てられたもので、規模は違うかもしれませんが、
まさしく鉄平が目指したものに近しいものかと思われます。

さて、話を本書 「華麗なる一族」 全三巻を通じて描かれる万俵家の歴史に
戻してみると、金融再編と平行してやはり最も重要なファクターとして描かれ、
かつシナリオの力点となっている点は、、、

"鉄平の高炉建設計画が適正であったかどうか"

…というところに見出すことができるように拝察します。
結果的に高炉建設は失敗に終わるわけですが、その結果に至る直接的、
或いは間接的な要因を見出すとすれば、以下の様な事象が挙げられるかと存じます。

・大口取引先であるアメリカンベアリング社が
コングロマリットに吸収合併されたことにより同社との取引キャンセルされたこと。

・山陽特殊鋼と同様、国内の特殊鋼需要が急速に低下し、
ダンピング合戦の後に販売益が見込めなくなったこと。

・阪神銀行頭取以下、役員たちが恣意的感情に基づいて、
見せ掛け融資などを通じて同社への貸し渋りを行ったこと。

・建設中の熱風炉の爆発。それに伴い多数の死傷者、
重軽傷者が出たことへの刑事責任問題と風潮被害。同社の株価の急速な下落。


さて、この章では鉄平の高炉建設計画が適正かどうかを精査するのであって、
そもそも高炉の必要性の有無を判断するのではない旨を書いておきたいと思います。
飽く迄「阪神特殊鋼には高炉が必要不可欠であった」
という視点から様々な事象を浅学菲才な僕なりに考察していきます。
よって物語序盤で、鉄平が高炉建設認可のため訪れた通産省で通告された
「転炉のみで高炉は断念せよ」とする指導の是非も、
そもそも阪神特殊鋼の慢性的な問題が銑鉄の安定供給が困難であった…
という事実を鑑みれば、その銑鉄を銅に転換する設備である転炉を備えても、
同社の根本的な問題の解決に寄与しないので、
これも当を得ない行政指導であると一応のところはしておきます。


一、ベアリング社との取引キャンセルの問題。



特殊鋼製品は他の鉄鋼製品との互換性を保つことが難しく、
尚且つ阪神特殊鋼の製造した輸出向け製品は、米国仕様の規格で
製造されたものであったため国内製品への転売が困難であった旨を考えると
同社の損失規模は大きいといえます。
更にそれらの製品群は全て出来上がっており、輸出のための船積み待ち
段階でのキャンセルなので、なお始末に負えません。
しかしこういった取引の場合、一般的には契約書の内容に基づいて、
司法なり何なりの場で取引の一方的な停止に対する
不服と損害賠償を請求できるわけですが、
ここでの阪神特殊鋼の決定的な手落ちは、
ベアリング社との長年の付き合いに気を許してしまい、
契約書の取引違反の関する条項を改めていなかったために、
上記のような保証を受けられなかった…というところにあるかと思います。
ともすれば、このミスは誓約書、契約書の効力が、
絶大に影響するアメリカ市場との取引を行う企業として、
リスク管理を著しく欠いた契約であると言わざる負えず、
相手方企業の過失責任と不運だけの問題ではなく、同じく物語冒頭で、
ベアリング社からの増産供給の取引を鉄平が結んだ段階で、
取引額が増大することは容易に想像が付くのですから、
その際に契約内容を仔細に改める必要性は追求できるように思われます。
こういった部分が、大介を筆頭とする敵方から 「技術を先行しすぎて財務を考慮しない」
という論駁の根拠ではないかと考えているのですが…どうでしょう。


二、国内の特殊鋼需要の急速な低下。


次に考えてみたいのが需要の低下です。
写真右のグラフは、国際鉄鋼協会の制作した
一人当たり粗鋼見掛け消費の推移(5年刻み)で、
2004年のデータは大手鉄鋼メーカーであるJFEスチールや
JFEエンジニアリングを傘下に収めるJFEホールディングスが追記したものです。
ご覧頂ければ一目瞭然ですが、
六十年代に鉄鋼需要は顕著に上昇していた様子が伺えます。

そんな中、需要の低下というこの問題に関しては、本書に書かれている
内容に即して考えるなら、鉄鋼製品の需要は高炉建設以前から
長期的に展望が望める…とする調査内容を、通産省が提示しており、
時が高度経済成長期にあった旨を考えると、高炉建設の計画段階で
特殊鋼需要の急速な低下という市場動向を見通すことは
困難であったといえるかと思います。
この部分において鉄平の経営判断、或いは各金融機関への稟議書に記された
需要に基づいた経営計画が不完全なものであったとせめることはできないでしょうか。
しかしながら需要低下の火蓋を切ったのは業界最大手である阪神特殊鋼が
上記のベアリング社からのキャンセルで財務環境が逼塞したことによる苦し紛れの
ダンピングであったことを考えると、
①で記した手落ちが響いており、悔やまれるところでしょうか。


三、メインバンクの貸し渋り。



この点に於いて鉄平の過失は、
僕の恣意的な感情もあってなかなか認める気にはなれません (笑)
大介の怜悧狡猾な投資判断は親子の関係のみならず、そもそも人道に反しており、
剰え使用用途を限定しない外貨貸付であるインパクトローンの
可能性を匂わせておきながら、大蔵省の美馬にその手続を意図的に
遅らせるなどの所業が、結果的に阪神特殊鋼の会計上の赤字をいっそう大きくし、
健全性を失わせる一助となっていることを考慮すると只々鉄平が哀れです。

写真右はTBS系の「日曜劇場」枠で放送された
同タイトルのドラマで登場した阪神銀行本店。

因みに阪神銀行は、現在の三井住友銀行の前身の1つで、
兵庫県を中心に店舗を有していた都市銀行である神戸銀行をモデルとしており、
初代取締役会長には万俵財閥のモデルとなった
岡崎財閥の総帥である岡崎忠雄が就任しており、
山陽特殊製鋼倒産事件ではメインバンクであった同行の経営体質が問題視され、
六十七年、それまで二十年間オーナー頭取として君臨していた
岡崎忠雄の長女の婿養子となった岡崎忠が会長に退き、
神戸出身の元大蔵事務次官・石野信一が就任しています。
(wikipedia 神戸銀行 太陽神戸銀行 山陽特殊製鋼 頁より)


四、熱風炉の爆発とその一連の被害。



熱風炉とは高炉に送る熱風を作り出し耐熱配管を通じて
高炉に送り出す炉のことで、高炉建設と平行して建設される設備であります。
(写真右 高炉とカウパー型熱風炉。)
この爆発も翌々読んでみると、
「火花が散る金属加工系の作業」と「引火性ガス関係の作業」、
2つの工程を同時に行っていたため発生した事故であり、
一定の偶発性は認められる大変不運な悲劇ではありますが
要は突貫仕様のスケジュールによって生み出された安全性を欠いた建設工事であり、
そのような無理な日程管理に至ったのは、
上記三点の不幸が重なってのことだった事を考慮すると、
過失責任の全てを鉄平に押し付けることはできないように思われます
そういった側面から論じるなら同時に大介にも全ての過失を負わせることもできない…
という論になるのかもしれませんが、ごくごく私的な考えで言わせていただけるなら
貸し渋った大介のほうが悪いんじゃないかと言いたくはなりますでしょうか。
と、いうかここまでダラダラと色々な駄文を書いてきましたが、
私見で言うなら全て大介が悪いと思います。
僕は万俵大介が大嫌いです (笑) 
でも高須相子はもーっと嫌いです。正直鼻を折りたいです。



以上を踏まえた上での鉄平の経営への私的な印象


改めて、①~④項目に於ける鉄平の過失責任について私的な印象は…

一、80%  二、20%  三、10%  四、30%

くらいに考えており、こうやって今一度、高炉建設に関する
一連の事象を再考察してみると、読中は鉄平擁護、大介批判で
ガッツリ読んでいたのと少し認識が違い、
一定の手落ちが鉄平にもあった理解しているようです。

確かに月商二億の特殊鋼メーカーであり、内部留保を約五十億円もち、
業界最大手である阪神特殊鋼の経営基板を考慮すれば、
高炉建設に踏み切るのも理解できるかもしれないが、
メイン、サブ以外にも政府系金融機関や都市銀行から二百億円以上の
不毛地帯

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シンジケートローンを組んで行う設備投資としては
やはり無謀であるという意見も同意できます。

もし僕が鉄平なら、斯様なリスクを背負って高炉建設を行う前に、、
高炉メーカー以外(特殊鋼メーカー、電気炉メーカー)で最終工程に
至るまでの製品を製造している企業数社間で協調融資を募り、
五千リューベ以上の規模を有する高炉を共同で建設し、
出資比率に応じた銑鉄供給を行うなどの策を取るなどして、
政治的な局面に左右されずに安全かつ安定的に銑鉄を供給できる方法を、
まずじっくりと検討したいところでしょうか。
ま、この言い分は山崎豊子さんの代表作の一つ 「不毛地帯」 で、
主人公の壱岐正が石油開発事業への参入を役員会議で進言した時に
副社長の里井が言った反駁と同質のものなんですがね (笑)
要は受け売りの俄アイデアです。
何れにしても、鉄平の不運は、久しく感じなかった憐憫の情を呼び起こすに
十分なほど、無残であり、過酷であり、そして理不尽であることは
変えようのない事実ではあると思います。





天下ヲ得ルニハ、一不義ヲ成サズ 一無辜ヲ殺サズ





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