2016年10月05日

映画 「聲の形」 を観に行く。

先日誕生日を迎えました。

ああ、悲しきは老い。30歳まであと一年。

思い返せば20歳になった9年前のその日、
酒を飲めるようになる喜びよりも、
もう子供として自分は生きていけないのだ…
という運命の残酷さに絶望して僕は風邪を引いたのだ! (←風邪かい!)

そして29歳になる数日前、絶望で一日中鬱みたいな気分で過ごしていると、
今回も体温計が39度の発熱を観測したわけです。
この調子では来年30歳になったときには50度くらいの熱が出るんじゃないかしら。


とそんな話は兎も角、風邪は早々に治り、その間調整していた仕事も片付いて時間ができたので
映画を見に行ってきました。山田尚子監督の「聲の形」です。


聲の形



山田監督と脚本の吉田玲子先生について。



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山田監督は「けいおん」シリーズで
知ったアニメーションディレクターですが、
脚本の吉田玲子先生は 「るろうに剣心 星霜編」
あたりから作品を拝見していたので
一癖ある作品になっているだろうとは
予想していましたが、良い意味で案の定でした。
この方の写実はアニメーションという
幻想主義世界でも一切の妥協がありません。




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しかしそれは当を得たことで、
ある種のハンディキャップを
背負った人々を題材に行われる
表現というのは、商業的成果を狙って
妙にリアリズムから外した表現を
多用したり、ジュブナイル要素を
前面に出しすぎると、社会や
障害者に対する洞察や認識が欠如している
と見られる恐れもあるどころか、
「偽善である」との誹りも
免れないセンシティブな要素なのです。




石田将也について感じたこと。



石田の境遇に見る興味深い特徴は、
「加害者と被害者」という対極の
スタンスを、幾度となく行き来する姿で、
更にその往来が当人の意思とは無関係に、
翻弄されるように変化します。
全ての意思決定が彼の意識下でありながら、
全ての事象が彼の希望から乖離した
結果を生む一連の様子から集団、全体主義の
人間関係の難しさを表しています。


同時に西宮を除いた他の主要人物と石田の
やり取りを見て感じた事は、人間は自分の
居心地の悪い立場で何のインセンティブも
なく長い期間生活するだけの忍耐力は
元来持ち合わせていないのだということです。


西宮硝子について感じたこと。



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本作で提示される西宮の自己に対する
評価の認識には、盲聾となった福島智氏の
壮絶な半生を描いた石原慎太郎氏の
ノンフィクション作品 「再生」 で描かれる
福島氏の洞察に似た諦観を感じました。
氏は自らの存在をカフカの「変身」に
登場するグレゴールに準え、

「私を全く知るはずのない他人が誰でもない
この私自身のことを書いている、書ききっている、
そうか、この俺の今在るあり様というのは
まさにこういうことだったのか、
誰がどんな同情、どんな理解をかざして
何をいってくれようと俺は虫なんだ。
奇妙な虫ということなんだなと。」
 ━第四十五頁

と述べています。


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そんな旧約聖書ヨブ記の物語のような勧善懲悪で
収まらないリアルにおいて、
彼女は自らの命を絶つ行為すら周囲に認められず、
深い絶望の底に沈んでいきます。
しかし、そんな彼女に対し石田が出した最後の答えが、
同情でも憐憫でもなく、ましてや迫害や憎悪でもなく、

「君に生きるのを手伝ってほしい」

というとても素敵で痛快な言葉だったのは、
この作品における瞠目すべき大きな魅力の一つです。
更に本作で西宮が提示する洞察や問題を最も深遠な
世界で描ききった作品としてキイスの
「アルジャーノンの花束を」がありますが、
主人公チャーリィが終盤に障害者施設を
訪問する場面に於ける洞察も
本作とリンクする部分があり興味深いですね。



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劇場版 聲の形 予告編。
 



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2016年09月02日

映画「君の名は。」を観に行く。

26日に直ぐさま観に行きたかったのですが、学生さんたちの夏休みが明けて、
人が少なくなり、尚且つ割引がある月初めに観に行く…という計画に変更し、昨日観てきました。
狙い通り、安い料金で貸切状態。平日午前とはいえ流石は和歌山です。
初週興行収入10億円クラスの人気タイトルでも自宅気分で観れます。

因みに小説版はAmazonで事前に注文しておき、映画を観た後、
帰ってきてから読み耽る…というスタイルで堪能。

「言の葉の庭」から二年、この間ずっと新海監督がツイッターで「大変だ」といいながら
手塩にかけて作り上げた渾身の傑作を、たった半日で消化するのは贅沢な話ですが、
何はともあれ、今回もホント~に素晴らしい作品でした!


※一応ネタバレ注意。
君の名は



高次元で両立する作品の大衆性と、監督の個性




文学的抒情性を前面に据え置いた前作からは
趣を変え、大衆的な要素をふんだんに
取り入れた作品で、類似作を敢えて監督の
キャリアから挙げるなら「星を追う子ども」が
最も性質的に近いような印象を受けますが、
シナリオ構成やその方向性、
映像の品質からサウンドに至るまで、
その悉くが洗練され進化しています。






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当初予告編を拝見した段階では正直、
「いよいよ新海監督も大衆路線へ変更か!?」
と一抹の不安と寂しさを抱えていたのですが、
いざ観てみると、確かに大衆的な要素も
数多く散見されるものの、監督の持ち味である
文学的な心理描写を前面に配するモノローグや、
写実的な映像美は健在で、歴代作品を見続けてきた
僕も充足した気分で観ることができました。

ま、そもそも新海さんは哲学の研究者ではなく、
一流の映画監督なのであって、初作から一貫して
提示し続けてきたテーマの方向性が本作で
変化したとしても、それは彼の過失や責任ではなく、
見る側の人間にどれだけの柔軟性や
多様性に対する認識があるかという次元の話なので、
その点では往年のファンには
知性が試されると言えるかもしれません。



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入れ替わった人格に相互が作用しつつ、
重厚な宗教的根拠にSF的なタイムリープの要素を
紐帯させ、運命論を導き出していく…
というファンタジーは、かなり派手な
設定である印象ですが、それによって瀧と三葉の
ラブストーリーが空々しくなったりする様子はなく、
二人の生み出す瑞々しいエモーショナルは
新海監督によって生み出された
ドラマチックな台詞と、愛嬌のあるキャラデザで
主軸として据えられています。  
つまり上記の感想を含め纏めると…

・万人が楽しめる大衆的要素と、
 クリエイターとしてのパーソナリティの維持。

・その大衆的要素の要となる派手な設定と、
 主人公二人のラブストーリーの共存。


の二点から深い感銘を受けた作品で、
僕にとって本作品は、「星を追う子ども」よりも
監督の個性を感じさせてくれる作品でありながら、
「秒速」や「言の葉」よりも大衆的な
エンターテイメント性を持つ作品であるという印象です。





小説版。




誰そ彼と われをな問いそ 九月の 露に濡れつつ 君待つわれそ



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古典教師の言葉に対し、それは「カタワレ時」だと
一笑に付す一つの短歌から、
物語はシンボリックに始まりを告げます。

ってかクラスの君たち。
ユキちゃん先生の話だけは真面目に聞きなさい。
この人はね。今でこそ穏やかに
授業をやってるけどね。
チョット前までそれはそれは
大変な感情のやり取りを東京でやってry

…とそんな話は兎も角、、
映画版とはシーンの違いも幾つかあり、
映画のシーンにはなかった要素は
勿論のこと、映画版にはあるけど小説版には無い
シーンなどもあり、比較すると作品の理解を補填できます。

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構成はライトノベル的な軽量かつ
親しみやすい文章に仕上げられており、
前作のノベライズ版とは方向性を変えてきています。 
おそらくは登場人物の年齢層を
考慮してのことかと思われますが、
思春期の男女の身体が入れ替わるというストーリー上、
多少のセクシャリティを感じさせる文章も見られます。
まあそりゃそうですよね。キレイ目を気取ってそこを
省略するとただの幻想作品になってしまいます。
かといって高尚を衒って作為的に
そこの写実性を全面に出して描きすぎると
エグくなるので、このライトな文章構成は
均衡を保つ上でも
理にかなっているといえるかとも思うわけです。



背景美術と音楽



・背景美術


新海作品の背景美術がアニメ業界において
世界屈指の芸術であることは最早僕が
言うまでもないことですが、
この極めて繊細な仕事ぶりを観た人は、
しばしば「実写のようである」という表現で賞します。
確かに全く僕も同感なのですが、
一つだけ付け加えさせていただけるなら、
「でも実写にしちゃったら、
この方の良さは何割かスポイルされてしまうかも」
ということでしょうか。
「実写に近づけたいなら、実写で撮ればいいじゃない」
という言葉で片付けられるほど新海監督が生み出す
背景美術を観た感動体験は
単純なものではないと私的には思っています。


・音楽


秒速で山崎まさよしさんの名曲を、
「言の葉の庭」ではKASHIWA Daisukeさんが
生み出した「Greenery Rain」をシンボリックかつ
叙情性豊かに使用し、本作ではRADWIMPSさんの
「前前前世」をはじめとした強く明確な世界観を
提示する曲群を、映画本作との
強い密接とシンパシーで表現しています。
新海監督の曲の使い方で最も感動を受けるのが、
まさしくその部分で、各々の曲と各々の作品の
マッチングに一分の隙もなく、まるで、
踊るダンサーと、そのダンサーの前に置かれた
鏡に写る姿を同時に見るようです。





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劇場版 君の名は。 予告編。
 



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2014年02月08日

言の葉の庭  新海誠

昨年2013年も才能あふれる様々な方がお作りになった作品を数多く拝見させていただきました。
どれも個性が光り、甲乙付け難い珠玉の作品の数々でしたが、私的に最も感激した一作のBD版をこのたび購入しましたのでその話でもしたいと思います。

※ちなみにネタバレ全開でいきますので、その点ご注意ください。

言の葉の庭



新海監督の作品レビューは過去に「星を追う子供」「秒速5センチメートル」「秒速5センチメートル(ノベルエディション)」 「ほしのこえ」
それなりに書かせて頂いておりますが…今回は昨年公開され、同氏のキャリアの中でも過去最高の興業成績を残された「言の葉の庭」です。



登場人物の幅広い感情表現。


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前作の星を追う子供は、古典的アニメーション作品のエッセンスを
ふんだんに盛り込んだ同氏にとって挑戦的な意味合いを含んだ作品であり、
伸び伸びとしたファンタジー要素が多く含まれた創造性と、
独創性豊かな世界観が魅力となっていましたが、
今回は男女間の複雑かつ繊細な距離感を粘り強く描いた物語である趣旨を考えると、
それ以前の作品群の延長線上に完成した一作であると定義できる側面もあり、
「秒速5センチメートル」でみられた文学的抒情性を更に
短い時間でより豊かに発展させ、尚且つそれを秀麗な美術で表現した
純粋な進化形作品であるというのが私的な印象です。
ではすべての要素が前作の踏襲で構成されているかということ、決してそうではなく、
たとえば今作では男女の年齢やそれに伴う社会的なスタンスの相違などを
キャラクターに付与させる事によって、「秒速」でみられたような貴樹と明里のような
“対等な立場と対等な想い”という同一間のイノセントにフォーカスした作りではなく、
タカオにはその歳には不釣り合いな自立性と年相応の純真さ、
翻ってユキノには大人として社会で生きていくには未成熟ともいえる
フラジールな心と大人の女性独特のミステリアスを持たせ、
双方が持つ複雑な二面性を紐帯させて
描いている点からもそれが窺い知ることができます。
物語終盤、二人の激情を表すかのような
秒速5センチメートル

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激しい雨が吹き荒れるマンションの階段でのタカオの悲痛な感情の発露も、
恰も数日前まで蕾だった花が気づかぬうちに花を咲かせ、
また散っていくかのように物語を穏やかに展開させていく
新海氏のそれまでのテイストと比較しても稀有な演出といえるかもしれません。
いずれにしても、頬に涙しながらも決して直情的に非難するだけの感情ではなく、
相手であるユキノの内に秘めた孤独や他人への不信を慮って放たれた
この言葉の数々は、ユキノが新たなる一歩を踏み出すための
啓示のような役割を果たしていたというのが、
タカオの腕の中で余韻嫋嫋に欷歔する彼女の顔前に降り注いだ
雨雲を縫う煌々たる太陽の光からもわかるわけですが、
この演出で私的に大いに驚かされたのが、これほどに劇的かつハイスピードに
人間模様が描写されているにもかかわらず、
上記の新海テイストが全く破綻していないという点です。
新海氏の真骨頂ともいえる精緻で秀麗な人間模様の描写は
あの独特の穏やかな雰囲気によって生み出されているものだと
ばかり思っていた自分としては衝撃で、このようにクオリティを維持したまま
自在にテンポを変えていけるのなら、
もはや敵なしじゃない…と初見の際は思いました(笑)



孤高に対する新海監督の認識。



更に強いシンパシーと感銘を受けたのが、
冷たい方程式

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その相反する二人が共通して背負っている「孤高」というものに対する新海氏の認識です。
本作のキャッチコピーが"愛"よりも昔、"孤悲(こい)"のものがたり。
と銘打っていることからもこれが主題と
位置付けられていることはすでに周知の事実でしょうが、
BD版の特典として収録されている新海氏のインタビューでは、

「孤独を克服しなければならないものの対象として
盲目的に描くことに対する違和感があり、人が一人の存在である時に得られるものの価値や
存在についてこの作品で描きたかった」


というようなことを語っておられなんとも印象的に残っていますが、
これは非常に鋭い洞察であります。特にゲームソフトやアニメーションというジャンルは
「他のコンテンツジャンルより比較的若い年代がマーケである」という性質も相俟ってか、
以前から、個別主義やデカダンスといったものを描くことを恰も禁忌とし自戒したかのような
クリエイター方の心理を代弁するかのように生み出された
“根底にある普遍的正義を盲信するような
利己的義侠心を付与されたキャラクターたち”

の乱立に僕自身も少なからず違和感を持っていたため
大いに共感するところであったわけであります。
ぐちゃぐちゃふわふわした乱雑な文章説明になってしまいましたが、解りやすく言うなら

「一人はダメだ!みんなじゃないとダメだ!
一人は寂しいだけで何もそこからは生み出されないんだ!」
←そ…そうなんです?

「たとえ正義だろうが、世界の危機が迫っていようが関係ない!
僕たちだけの独断で決めちゃダメなんだ!
とりあえず町の一人一人に意見を聞いてから……」
←え…ええ~…ようやく話が前に進みそうだったのに…

「誰も犠牲にしない! 
○○の命もこの世界も…
必ず俺がすべて守ってみせる!」
←気持ちは痛いほど解りますが
老婆心ながら「道徳的ジレンマと冷たい方程式」という話もチョット聞いて下されば幸いなんですが…

というような単純な話です。
カフカの変身

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しかし一般的にこれらのポリシーは
不変的事実として世に据え置ておかないといけないものでもある…
というのも大いに理解し同意できることでもありまして、
クリエイターの方々の中には
“そこに重点を置いて表現を行うことは一種義務のようなものだ”
…とお考えになっている方もいるというのもまた然りであっていいと思います。
何より僕のような、こんな捻くれた少数派の落伍者のために作品を作ることも
あまり益にならないのでまあ仕方ないといえば仕方ない話だと思うのですが、
以前コピーライターの糸井重里氏が、ゲームを作る作業は非現実的な綺麗ごとだけでは
完遂することができないというのを

「物事に光だけあてても真っ白なだけで全体を見通すことはできない、
影の部分があってはじめて立体的な構造を窺い知ることができる」


と警抜な喩えを用いて話しておられたのを印象的に記憶していますが、
私的にもそれには同意するところであります。

いずれにしてもそんな上記の新海氏の言葉からも窺い知ることができる一種の
カウンターカルチャー的な認識によるところなのか、作中には戦中戦後の
日米作家にあったような自然主義的な作風と符合する部分を少なからず感じました。
しかし、かといってかのプラハの文豪フランツカフカの作風にみられるような
カタストロフやディストピアといった読み手を選ぶような強烈な経過や結果は見られず、
そこは現代のエンターテインメント作品に慣れ親しんだ人にも
違和感なく見ることができるように鋳造されており、
物語のエピローグでは本編中で描かれたタカオとユキノの逢瀬が、
茫漠とした時間によって刹那的に失われていくような所謂“普遍的邂逅”ではないと取れるような描写が
タカオのセリフ「遠くまで歩けるようになったら…会いに行こう」という部分によって潜在的な可能性として示されています。
この点も、交差する電車の向こう側に想い人が居なかった…
という事実で新たなる一歩を踏み出す決意をした「秒速」の貴樹とは相反する描写ではありますが、
しかし手紙のやり取りだけで男女間の深い関係を継続させよう…という描写は、
他の監督さんが書いた物語なら多少は好転的に捉えることもできるかもしれませんが
何しろこの作品は、手紙だけの遠距離恋愛が消滅していく過程を描いた「秒速5センチメートル」
をお作りになったあの新海監督だということを考慮すると…どうなんでしょうネ(笑)


ロケーションと秀逸な音楽。


ちなみに新宿御苑というロケーションも秀逸であると思います。
都会の中にあって森閑とした自然豊かな閉鎖空間の背後には、
文明を象徴するかのような高層ビル群の尖塔を仰ぎ見ることができ、
タカオとユキノという日常と非日常の差を他人以上に意識して生きている二人には、
これ以上ないほど相応しい場所ですね。

音楽は全編通じてピアノソロ曲で構成されていますが、
この抒情性豊かなパッセージの数々もこの短い作品に
多大な奥行きと深みを与える一因となっています。
とりわけ本作はモノローグを除くキャラクターのセリフの総数が、
一般的な作品に比べて少なく、剰え登場する人物の頭数も限定されているので、
セリフ以外の様々な要素が生み出す情報を視聴者側が積極的に搾取し、
整理し発展させなければ作品の本質に迫れないという設計になっているので、
BGMの持つ役割の比重というのもそれに応じて必然的に重くなっていますが、
改めて場面場面を子細に見てみると、
適材適所で繊細なピアノの音色がその役目を
まさしく全うしていることが矢庭に理解できますね。

これ以外にも素晴らしいなと感じた個所を逐一書いていると、
本当にキリがないんで、とにかく最後に言いたいことは、
この作品は何度見ても本当に美しい。ということです。
映像、演出、音楽、そして言葉のすべてが美しい。

僕が作品を通じて見たかったもの、聞きたかったもの、知りたかったもの、
その全てがこのたった46分の中編作品に収められています。
ちょうど同じ時間をもって演奏されるブラームスやシベリウスの交響曲は度々

「一音たりとも無駄な音がない。すべて必然によって生み出されたものだ」

と評されることがありますが、
僕はこの作品にもそれと同じ印象を抱きました。

現在執筆中だというノベライズ版にも期待が高まる次第です。



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言の葉の庭  言の葉の庭  DSC03402AA.JPG  PB151862[1][1].jpg  hosiwo211.JPG  P6198278[1].jpg


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劇場版 言の葉の庭 & 秒速5センチメートル 予告編。
 


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2013年05月02日

風の谷のナウシカ 

今回は風の谷のナウシカの話を簡単に書いてみたいと思います。

風の谷のナウシカ


環境破壊への警鐘を色濃く含む本作の着想。



DSC03101[1].jpgさて、本作についておしゃべりさせて頂く上で欠かせない出来事、
それは四大公害病の一つであり1946年から十年以上に
渡り熊本県水俣市の工場から排水された汚染水に含まれる
メチル水銀に端を発する水銀公害と水俣病に関する一連の人災です。
この公害により水俣湾は、魚は当然、地域住人や、魚を
補食する動物にまで多大な死を与えただけでなく
たとえ死を免れたとしても
メチル水銀というのはは中枢神経系などに入り込みやすく、
いったん発症した脳・神経細胞の障害の多くは不可逆的であり、
リハビリ以外の改善策は現在に至るまでありません。
症状が重篤なときは、狂騒状態から意識不明をきたし死に至るため、
伝染病であると誤解され至る所で差別と偏見が起き、
原因が工場の汚染水であると判明し、
誤解が解けたかと思うと今度は責任の所在を巡り
姿を変えた差別、誹謗中傷が発生、
現地では汚染魚を食べたネコの狂死体が至る所で見られました。
それにより水俣近海産の魚介類の市場価値は風評被害により失墜し、
水俣の漁民たちは貧困に陥りました。

更に有機水銀は胎盤を通過しやすいという化学的な性質から、
DSC03101[1].jpg胎児や幼い子供にとりわけ発症しやすいという正に悪夢の病気でありました。
この病により、長きに渡って「死の海」と恐れられることとなった水俣湾ですが
その後、意外な救世主が元の綺麗で清浄な
海に回復させる一翼を担ったことが知られています。

その正体は、一人目の発症例から数十年が経過した頃、
湾の微生物を調査していた研究者が発見した
水銀耐性菌と呼ばれる変異した細菌でした。
なんとこの菌は海中に存在する有害な有機水銀を摂取し、
弱毒化した金属水銀とメタンガスに分解し、吐き出す驚くべき菌だったのです。

これらの菌が水俣湾の浄化にかなりの影響したそうですが、
さらに、突如発生したこれら水銀耐性菌は
周囲に摂取する有機水銀が無くなり清浄な海に戻ると、
まるで何事もなかったかのように元の菌に戻り、
生き続けるシステムになっているそうで、自然の偉大さと
人間の愚かさを鑑みる例としてテレビや書籍でも紹介されています。

この出来事が宮崎監督自身、本作の構想と思想に
かなりの影響を受けたと以前から語っており、
実際、作中の世界観の随所に監督の自然に対する敬愛の念が感じられますね。



登場人物各人の思想の源泉や振る舞いについて


・ナウシカについて。

DSC03101[1].jpg自然に対する敬愛の念という意味に於いては
「ナウシカ」、、という語も、竪琴や歌を愛し、
なにより自然への友愛の念に満ちていたとされる
ギリシア叙事詩『オデュッセイア』に登場するスケリア島の王女『ナウシカア』から
引用されている点もその証左と言え、同時に監督は原作本一巻の末尾に於いて、
平安時代後期以降に成立した短編物語集、堤中納言物語に登場する
虫愛づる姫君と称される按察使大納言の姫にも着想を得ており、
この一編を耽読してみると、芋虫ばかりに興味を抱く文字通り虫を愛するこの姫は、
周りから「気持ち悪がられるので改めては」と忠告を受けても

「苦しからず。よろづのことどもをたづねて、末を見ればこそ、
事はゆゑあれ。いとをさなきことなり。烏毛虫の、蝶とはなるなり」


などと述べると共に、

「きぬとて、人々の着るも、蚕のまだ羽つかぬにし出だし、
蝶になりぬれば、いともそでにて、あだになりぬるをや」


と言って見事に論破し、苦言を呈す周りのものを絶句させている様子は、
正に本作のヒロインであるナウシカの生き写しとも言える一貫した方向性が伺えます。

・ヴ王について

そういった背景もあってか本作に登場する世の指導者の多くは、
逆に私欲におぼれた怜悧狡猾で邪知暴虐な人間像として描写されており、
私的にトルメキアのヴ王がシュワの墓所を守る教団の者に罵った
「失政は政治の本質だ!!」という言葉は何とも人間らしい言い分だなと印象的でした。
火の七日間とは呼称せずに第三次世界大戦とでも言った方が解りやすいのでは?、、
と人間に対する邪推が僕自身にもよぎりましたが、同時に
腐海に覆われ、修羅の道程に生きる作中の人間が、
浄化作用の一部に過ぎないということすらを韜晦し眠りについた前人類の様には
欺瞞と利害に満ちた今の国際社会の未来を啓示しているかのような感覚を覚えます。

・道化について。

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最終巻に於いてヴ王の側近のように縦横無尽に動き回り、
非常にシンボリックな存在として動く道化の存在は、シェイクスピアの四大悲劇の
最高傑作として知られる「リア王」に登場する道化と近いものを感じます。
新潮社版福田恒存訳のリア王の末尾に解説を寄せている中村保男氏は、
同作に登場する道化が如何に重要な存在であったかを解説しているのですが、
それによると、冗談に託して時の王に対して風刺する場面に違和感を抱く
読者が少なからずいたとしても、これには歴史的背景と証左があり、
実際、古代ローマに於いて宮廷の道化師は、
王侯貴族の宮廷に召し使われており、宴席などで人々に罵言を吐いたり、
滑稽な身振りや言葉で人々を笑わせたりしていたようで、
更に興味深いのは当時のそうした道化師は職業として確立しており、
その身分を表す鈴の付いた頭巾を被っていれば、いわば天下御免で、高貴な身分の者、
延いては王に対しても毒舌を浴びせかけることが
習慣として許されていたようです。(同書解説 第二百五頁)
改めてナウシカに登場する道化を見直してみると、
成程、しっかりと鈴の付いた頭巾を被っており、
その役割もリア王の道化と等しく、大局的な役割を遺憾無く発揮し、
物語の本質を浮き彫りにさせる一役をかっていますね。



DVD版のオーディオコメンタリ


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さて、こちらのDVDは庵野さんと片山さんのオーディオコメンタリーが
目当てで発売と同時に購入した物で、当時トップクラフトで宮崎監督と
共に本アニメの制作に尽力した二人の作品に対する深い理解や裏話などを
本編訳二時間を通じて聞くことができる大変魅力的な特典です。

物語序盤、ナウシカがジルを暗殺したクシャナ軍兵をセラミック刀で
斬殺するシーンで、庵野さんがナウシカは恐らく唯一、
宮さんの作品で人を殺したヒロインであり、
前作カリオストロのクラリスが彼の光の部分であるのに対し、
ナウシカは影の部分を背負っている、、という考察を語っており私的に印象的でした。
物語中盤で彼が描いた、クロトワが蚕の繭のような中にいる
巨神兵を睥睨する場面に至っては、これエヴァの一シーンですかね?
というほど彼の味が出ており、その後の王蟲を一掃する巨神兵の場面も含め、
本人は「時間が無かったとはいえ、申し訳ないデキで謝りたい」と
謙遜していますが、コレでダメならじゃあ何がイイんだ、
と言いたくなるほど何度見ても素晴らしい完成度だと思います。

謙遜しているという意味では先ほど引用した原作一巻の末尾で宮崎監督は
「自分には漫画の才能ナシ」と断言し、このナウシカの漫画を描きながら
改めてそれを今実感しているところだ、、と語っていますが、あれだけ秀逸な絵とシナリオが描けて
「才能ナシ」とはどういう了見なのかと、正しく「才能ナシ」の僕は切に思いますネ。



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2013年01月04日

星を追う子ども BS放送 

さて新年は自宅でダラダラしながらガキの使いのSP ~熱血新任教師~ を観て、
それはそれは呼吸困難になるほど大笑い(主に浜ちゃんのズラと川柳)していたわけですが
その後はBSで放送されていた新海誠先生特集を観ておりました。

コチラです
hosiwo[1].jpg




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Photography by makomako972
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http://makomako972.seesaa.net/

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ほしのこえ、雲のむこう約束の場所、
秒速五センチメートルはすでにDVD、BDとして持っているのですが、
最新作である星を追う子どもはまだ観たことがなかったこともあり、
これは良い機会だと思っておりましたので。

さて作品の内容は冒険活劇、それもご本人が仰っているように
非常に典型的な冒険活劇だと私的には感じましたが、もう少し補足するなら
一般的にこのテのジャンルでは
王様的なポストにある天空の城ラピュタをはじめとするジブリ作品に部分的に則した内容で
本編放送前の新海先生のインタビューにおいても
上記の作品を例題として本作の内容に言及しておられ、
昨今、先進的でエッジの効いたような雰囲気で構成されるTVアニメ業界に於いて、
かつてはありふれたジャンルであった冒険活劇を
非常にオーソドックスかつトラディショナルな形で制作した、
言わばこの時代に於いては稀有な存在である作品です。




氏にとっての前作である秒速五センチメートルは、
短編3作によるチェーンストーリーの構成をとっており、美しい映像とは裏腹に、
その本質はむしろ登場人物の自分自身、或いは他人に対する心理考察や、
それによって構成される言葉の数々にありましたが、
今回の星を追う子どもはそれとは対照的に、
言葉の力もさることながら、その本質は冒険活劇を題材としたアニメ独特の
バーチャリズム溢れる世界観が最大の魅力となっています。

主人公の明日菜に関しても、とってもキュートで
快活ながらどこか大人の雰囲気を醸し出し、
かつ孤独であるという二面性を絶妙なバランスで持つ少女で、
これもある意味、伝統的なキャラ設定であると言えると思いますし
明日菜のクラスに臨時担任として赴任した森崎先生も、兎に角孤高な存在で、
敵なのか味方なのかハッキリしない謎多きキャラとして、
劇中至る所で主人公の明日菜だけでなく観客の心理を巧みに翻弄していきます。
こういったキャラクターは一見して思念や理念に一貫性がないように写りますが、
その人が体験した 「あるたった一つの事柄や出来事」 を加味して考察すると
一本背骨が通ったイイ意味で単純なキャラであることが解る
という特徴があったりしますが、この森崎先生も例外ではなく、
最愛の妻に深く関連する「死生観」という概念によって一連の行動が導かれています。




さてこれは私的に感じたことですが、こういったオーソドックス&ベタで行こう!というスローガンにフォーカスした作品は
一歩間違えばジブリ作品のような古き良き作品の模倣であるに過ぎないという誹りを免れないこともあるでしょうが、
新海先生がそれを理解した上で今のこの時代に、こういった形で一石を投じたのは素晴らしいことだと思いますし、
このようなオーソドックスな冒険活劇を単純に評価してる方や、キチンと只のパクリでは無いと言うことを見抜いて評価なされている
視聴者がいることは私的に非常に嬉しいことだと思います。

全体を通してアクションシーンが多く、手に汗握るシーンが数多くありますが作画のレベルも高く、躍動感あふれる絵になってます。

あとなんとな~くふと考えてしまったのが、森崎先生が明日菜の体を使うことを願ったラストシーン。

先生は、
直前に「君には生きていて欲しい」といった明日菜をも利用してでもリサを救いたいと思う強い男だったのか…
それともリサの復活のためなら明日菜を死なせても良いと思うほど弱い心の男だったのか…


なんてこと。
まあそれ以前に魂を移す器(肉体)が要るって……

降りる前に言っといてやれよ!!

って話なんですが(笑)

なんていうかアレですね、隣町にとてつもなく旨い飯屋ができたという噂を聞いたのでわざわざクルマで豪雨の中、苦労して行ったら、
店の表に「箸、器類は持参」って書いてるようなもんですネ(笑)

「チラシに書いとけよっ」って話です。

逆に明日菜の町に
「生き返らせたい人必見!!人間一人(小学生可)持参でフィニス・テラの生死の門にて復活させます!!詳しくは→TEL○○○-○○○○ まで!!」

なんてビラをアガルタの人が配ってたらそれこそふざけんなってコトになるんでしょうが(笑)


とにかくそんな下らない話はともかく、星を追う子ども とっても面白かったです。
現在、年内の公開を目標に新作を作っておられると言っていたのでそちらもファンとしては非常に楽しみですね。


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(wikipedia)  新海誠     (公式HP) 新海誠


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劇場版 言の葉の庭 & 星を追う子ども 予告編
 


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